失敗の多くは「開業前」に決まっている
ネットショップの失敗として挙げられるのは、集客不足・リピーターがつかない・利益が出ない、といった運営開始後の話がほとんどです。ただ、これらの原因をたどると、開業前に決めた条件がそのまま結果になっているケースが多くあります。
たとえば「利益が出ない」の原因は、多くの場合は売り方ではなく価格設定です。原価と手数料を足したうえで販売価格を決めていれば起きません。「集客できない」も、公開してから考え始めたか、公開前に接点を作っておいたかで結果が変わります。
よく挙げられる失敗を、それが決まったタイミングで並べ替えると、対処できる時期がはっきりします。
| よくある失敗 | 実際に決まったタイミング | 開業後に取り返せるか |
|---|---|---|
| 利益が出ない | 販売価格を決めたとき | 値上げは既存客を失うため難しい |
| 集客できない | 公開前に接点を作らなかったとき | 取り返せるが、時間か広告費がかかる |
| 在庫を抱えた | 初回の仕入れ量を決めたとき | 値引きで現金化するしかない |
| 手数料で利益が減る | サービスとプランを選んだとき | プラン変更なら可能。乗り換えは負担が大きい |
| リピートされない | 開業後の運営で決まる | 取り返せる。改善の余地が最も大きい |
取り返しにくいものほど、開業前に決めているという関係があります。逆にリピートは運営で改善できるので、開業前に時間をかけるべきなのは上の4つです。
この記事の立ち位置
失敗例を並べるだけの記事は多いので、ここでは数字で説明できる部分を数字で書きます。精神論や「こだわりを持つ」といった助言は入れていません。
年商100万円のネットショップに、いくら残るか
いちばん多い誤解は、年商と年収を同じものとして考えてしまうことです。売上から引かれるものを順に並べると、残る金額の少なさがはっきりします。
次の前提で試算します。
- 年商100万円、客単価5,000円(年間200件)
- 原価率40%
- プラットフォーム費用はBASEのスタンダードプランを使った場合の概算
- 送料と梱包材の自己負担を1件あたり500円
年商100万円で、手元に残るのは42.6万円です。月あたり3万円台になります。ここからさらに広告費や通信費が引かれます。
この数字自体は悪いものではありません。問題になるのは、年商100万円を「月8万円ちょっとの収入」だと思って計画を立てた場合です。実際の倍以上を見込んでいることになり、その差が「思ったより儲からない」の正体になります。
試算の前提について
原価率や送料の自己負担額は商材によって大きく変わります。上の数字は構造を示すためのモデル計算であり、調査データではありません。自分の商材の原価率で置き換えて計算してください。
規模が変わると、効いてくる項目も変わる
年商が10倍の1,000万円になると、同じ構造でも景色が変わります。原価400万円、送料100万円は比例して増えますが、プラットフォーム費用は選んだプラン次第で大きく差がつきます。
年商1,000万円の場合、BASEのスタンダードプランでは年74.0万円、グロースプランでは年48.9万円という試算になります。同じサービスの中でも25万円の差です。プランを変えないまま売上だけ伸ばすと、この差がそのまま利益から消えます。
月額0円のプランは、売れていない間は最も得で、売れ始めると最も高くなります。月額を払わない代わりに売上から引かれる率が高いためです。開業時に月額の安さで選んだまま見直さないと、伸びたときにいちばん損をする形になります。
売上が伸びてきたら、年に一度はプランの棚卸しをしてください。やることは、直近12か月の売上を各プランの料金表に当てはめて計算し直すだけです。作業は1時間もかかりませんが、年10万円単位で変わることがあります。
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「売れない」を集客不足で片付けない
開業後に最も多い相談は「売れない」です。ただ、これを集客不足と決めつけて広告を出すと、原因が別だった場合に費用だけが消えます。
切り分けは単純です。アクセス解析を見て、訪問者がいるかどうかで分かれます。
訪問者がいない状態で商品ページを作り込んでも、成果は変わりません。逆に、訪問者はいるのにカートに入らないなら、広告を足しても離脱する人が増えるだけです。原因を特定してから手を打ってください。
アクセス解析は、開業と同時に入れておくものです。あとから入れても過去のデータは取れません。
訪問者が来ていない場合
検索からの流入は、ページが評価されるまで時間がかかります。開業直後に検索だけを頼りにすると、数か月は訪問者がほとんどいない状態が続きます。
現実的なのは、すでに自分を知っている人に知らせるところから始めることです。SNSのフォロワー、取引先、実店舗の常連、友人。ここで最初の数件が売れると、商品ページの改善点も具体的に分かります。
広告を使うかどうかは、この段階では急ぎません。商品ページが買われる状態になっていないうちに広告を出すと、費用をかけて離脱を増やすことになります。先に数件売って、買われる形になっているかを確かめてからのほうが、同じ予算でも結果が変わります。
訪問者はいるが、カートに入らない場合
商品ページで判断されて離れています。確認する順番は、写真・説明・送料の3つです。
- 写真は、商品の大きさが分かるものが入っているか
- 説明に、素材やサイズなど購入判断に必要な情報があるか
- 送料がいくらか、商品ページの時点で分かるか
このうち見落とされやすいのが送料の明示です。カートまで進んでから送料を知ると、そこで離脱します。商品ページで先に伝えておけば、離脱は購入手続きの手前ではなく検討の段階で起きるため、手間をかけたぶんの無駄がありません。
カートには入るのに、購入されない場合
いわゆるカゴ落ちです。原因は購入手続きの側にあります。
会員登録を必須にしていると、そこで一定数が離れます。初回は会員登録なしで買えるようにしておくと、この離脱を減らせます。また、使いたい決済手段がないという理由でも離脱が起きます。クレジットカードしか使えない状態は、カードを持たない層や、使いたくない層をそのまま逃していることになります。
どの決済を足すかは顧客層によって変わります。決済手段を増やすと手数料も増えるため、闇雲に全部入れるのではなく、自分の顧客層が使うものを優先してください。
一度買った人が戻ってこない場合
新規の獲得には広告費や手間がかかりますが、一度買った人への再アプローチは費用がほとんどかかりません。それでも手を付けていない店が多いのは、仕組みを作る前に日々の対応で手一杯になるためです。
開業時点でやっておけるのは、連絡先を受け取る導線を作っておくことです。注文時のメールアドレスは残りますが、配信の同意を取っていないと後から使えません。購入完了の画面や同梱物でメール配信やSNSへの導線を用意しておくと、後から施策を打てる状態になります。
リピートは、この記事で挙げた失敗のなかで唯一、開業後からでも十分に取り返せる領域です。開業前に完璧を目指すより、受け皿だけ用意して走りながら改善するほうが現実的です。
開業前に飛ばしがちな手続き
手続きの漏れは、開業直後には問題になりません。売上が立ってから効いてきます。
| やること | 期限・条件 | 飛ばすとどうなるか |
|---|---|---|
| 開業届(個人事業の開廃業等届出書) | 事業を始めた年分の確定申告期限まで | 事業を始めた事実が税務署に届いていない状態になる |
| 青色申告承認申請書 | 原則、その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した年は、開始日から2か月以内) | 青色申告の特典が使えない。開業届とは別の書類 |
| 確定申告 | 給与所得者は副業所得が年20万円超で必要 | 申告漏れとして後から追徴される |
| 特定商取引法に基づく表記 | 通信販売を行う時点から | 表示義務違反にあたる。購入前の信頼も落ちる |
| 商材ごとの許認可 | 販売開始前 | 無許可販売になる。中古品・酒類・食品などが該当 |
許認可は商材によって変わります
中古品を扱うなら古物商許可、酒類なら通信販売酒類小売業免許、食品の製造販売なら営業許可というように、必要な手続きは商材ごとに違います。扱う予定の商材について、管轄の窓口で先に確認してください。この記事は法的助言ではありません。
特定商取引法に基づく表記では、事業者の氏名・住所・電話番号の記載が求められます。個人で開業する場合、自宅の住所と電話番号を公開することになる点は先に知っておいてください。抵抗がある場合は、バーチャルオフィスなどの選択肢を検討する余地があります。
税金の扱いは、売上ではなく所得で決まる
「いくら売れたら税金がかかるのか」という疑問は多いのですが、基準になるのは売上ではなく所得です。所得は、売上から経費を引いた残りを指します。
会社員が副業として運営する場合、給与以外の所得が年20万円を超えると確定申告が必要になります。先ほどの試算でいえば、年商100万円で手元に42.6万円残る想定なので、この水準ならすでに申告の対象です。年商が小さいから関係ない、とは言い切れません。
経費として計上できるものを記録していないと、所得が実態より大きく計算され、払う税金が増えます。仕入れ代金、プラットフォームの利用料、送料、梱包材、撮影機材。開業した日から領収書を残す習慣を作っておくことが、いちばん費用対効果の高い準備です。
青色申告には各種の特典があります。ただし開業届とは別の書類(青色申告承認申請書)を、期限までに出す必要があります。開業届を出しただけでは青色申告にはなりません。期限は上の表のとおりで、開業した時期によって変わります。適用の条件や金額は制度改正で変わるため、具体的な判断は国税庁の案内か税理士に確認してください。
開業希望者を狙う勧誘と、その見分け方
ネットショップの開業を検討している人を狙った勧誘があります。「ネットショップ 開業 詐欺」「開業 勧誘」といった言葉で検索されているのは、実際に接触されている人がいるためです。
典型的な形はこうです。
SNSやセミナーで接点を作る
「誰でも月◯万円」といった実績を見せて、無料相談に誘導します。
個別面談で不安を引き出す
現状の収入や将来への不安を聞き出し、それを解決する手段として自社のサービスを提示します。
その場で契約を迫る
「今日だけの価格」「枠が残り1つ」と期限を切ります。高額な場合はローンの申し込みまで同席で進めます。
判断材料はシンプルです。
信頼できる相手の特徴
- 事業者名・所在地・代表者名を自分から開示する
- 契約書を持ち帰って検討することを認める
- 収益の根拠を、手数料や原価まで含めて説明できる
- うまくいかない場合のリスクも説明する
警戒すべき特徴
- その日のうちの契約を求める
- 「初期費用ゼロ」と言いながらローンを組ませる
- 仕入れ先の紹介料を先に払わせる
- 実績の数字はあるが、計算の根拠を出さない
その場で決めさせようとするかどうかが、いちばん分かりやすい線引きです。まともな事業者は、検討する時間を惜しみません。契約後に不安を感じた場合は、消費者ホットライン「188」で最寄りの消費生活センターに相談できます。
サービス選びを失敗にしないための判断軸
開業サービスの選択は、あとから変更しにくい部分です。商品データや顧客データの移行、URLの変更が発生するため、売上が立ってからの乗り換えほどコストがかかります。
選ぶときに見る順番は次のとおりです。
想定年商での年間総額を計算する
月額だけでなく、決済手数料と販売手数料を足した金額で比べます。年商によって最安のサービスは入れ替わります。
扱う商材が規約で許されているか確認する
サービスによって取り扱い禁止商材が違います。契約後に気づくと移行するしかなくなります。
必要な決済手段が使えるか確認する
顧客層によって求められる決済は変わります。使えない決済があると、その分は購入されずに離脱します。
プランを変えて伸ばせるか確認する
売上が増えたときに、同じサービス内で手数料の安いプランへ移れるかを見ます。移れるなら乗り換えずに済みます。
主要なサービスの年間総額は、別の記事で年商別に試算しています。サービスを絞り込む段階では、そちらの数字を使ってください。
副業として小さく始めるなら月額0円で始められるサービス、最初から事業として伸ばす前提なら、売上が増えても手数料の上がり方が緩やかなサービスを選ぶのが失敗しにくい形です。判断は月額ではなく、想定年商での総額で行ってください。
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運営してみて分かった、記事に書かれない失敗要因
ここからは、当社が自社ブランドのECサイトを運営し、ShopifyアプリやギフトEC(PsyPre)を自社開発してきたなかで実感している点です。開業ノウハウの記事にはあまり出てきませんが、実際に効いてきます。
時間を取られるのは、売る作業よりも運営の事務であることが多いです。注文の確認、在庫の更新、発送、問い合わせ対応。1日に数件なら手作業で回りますが、件数が増えると急に回らなくなります。忙しくなるのは売れているときなので、改善に手を付ける余裕がない時期と重なりやすくなります。
発送まわりは、開業前の検討から抜け落ちやすい部分です。送り状の作成、追跡番号の登録、配送日時の指定。サービスによって標準でできる範囲が違い、できない部分は手作業になります。1件あたり数分でも、月200件なら十数時間です。当社がShopify向けの発送アプリを作ったのは、この手作業が実際に無視できない量だったからです。
返品と問い合わせの想定を先に決めておくと、判断で消耗しません。返品を受けるかどうか、送料はどちらが負担するか。決めていないと1件ごとに悩むことになり、対応も客ごとにぶれます。ぶれた対応は後からクレームの材料になります。開業前に文面として用意しておくだけで、運営中の負荷がかなり変わります。
機能の数より、自分の業務に合う1つがあるかどうかで決まります。拡張アプリが何千あっても、必要な機能が存在しなければ意味がありません。逆に数が少なくても、国内の商習慣に沿った機能が標準で入っていれば追加費用はかかりません。サービスを比べるときは、アプリストアの規模ではなく「これができないと困る」を3つ挙げて、それぞれ実現方法があるかを確認するのが実際的です。
運営が回らなくなる分岐点は、売上ではなく件数で来ます。客単価が高ければ、売上が伸びても件数は増えません。逆に単価の低い商材は、同じ売上でも処理する件数が何倍にもなります。同じ年商1,000万円でも、客単価5,000円なら年2,000件、5万円なら年200件です。手作業で回るかどうかは、この件数で考えてください。
開業前チェックリスト
ここまでの内容を、着手前に確認できる形にまとめます。
開業前に確認すること
- 自分の商材の原価率で、年商別の手取りを計算した
- 販売価格に、原価・手数料・送料の自己負担を織り込んだ
- 想定年商での年間総額でサービスを比較した
- 扱う商材が、選んだサービスの規約で許されているか確認した
- 商材に必要な許認可を調べた
- 特定商取引法に基づく表記に載せる住所と電話番号を決めた
- 開業届と青色申告承認申請書の期限、確定申告の要否を確認した
- アクセス解析を入れた
- 公開直後に知らせる相手をリストアップした
- 返品と送料負担のルールを文面にした
失敗の多くは、才能や運ではなく、この確認を飛ばしたところから始まります。逆に言えば、開業前に潰せる失敗のほうが多いということです。